【感想】★★★★☆(95点)
はじめに
これは、ウクライナ出身のダンサー、セルゲイ・ポルーニン(Sergei Polunin)の半生を追うドキュメンタリー映画だ。所謂エンタメ作品ではない。
この映画との出会いは偶然だった。貧乏性なのか、視聴期限の迫ったアマプラ映画一覧は、たまにチェックすることがある。そこで見つけた。これを見逃すことがなくて、本当に良かったと思う。
面白そうな概要と美しい青年の横顔に惹かれ、とりあえず「Take Me to Church」のMVをチェックした。そこで目が釘付けになってしまった。何度リプレイしたか分からない。床をのたうち、もがく姿に涙が出る。ついでにMVの作成風景をチェックして、そのままの勢いで映画を再生した。
できれば同じ手順で、前提知識なしで(1)MVのチェック・・・上記Youtube動画(2)映画の順で、自分の感性のみで観てほしい。そしてまた、(3)映画視聴後に、歌詞と彼が踊る意味を知った上でMVを再度確認してみてほしい。レビューも邪魔になるので、以下は読まずに先に映画を観たほうがいいと思う。私などより、自分で感じたことを大事にした方がいい。絶対に損はさせない。あなたに美しい獣を観てほしい。
感想
大きな才能とその半生を淡々と綴ったこの映画には、家族や運命の配置、そして人生についても考えさせられる。
いくつか印象に残った言葉がある。セルゲイ氏自身の「肉体と義務の監獄」、これは彼の身体を飾るスカリフィケーション(scarification:傷跡による身体装飾)やMVの振付とも符号する。彼はその牢獄を破るためにもがくような日々を過ごしてきたのではないだろうか。自分自身を取り巻くあらゆるもの、肉体でさえも破り捨てて飛んで行きたい、そんな内なる深い葛藤が感じられた。
そんなことを感じる反面、彼の目はとても静かだ。終始哀しみが満ちているが、恨みや怒りを宿して擦れるでも、安い色気を獲得するでもなく、あくまでそう造られたと思わせる静謐さがある。一見、自暴自棄風味なことをしていそうだが、そんなことぐらいでは、何ひとつ彼の本質を奪えなかったことが伺える。
そんな彼は選ばれたのだろうか。誰かが彼を選び、誰かが誰かを選んだんだろうか。幼さの残る彼をイギリスに一人残す母親が「最大の犠牲を払った」と告白しているように、選ばれたのは彼の家族なのだろうか・・・そんなことを考えた。
本人にしてみればたまらないだろうが、試練や傷が人を磨くのも普遍的な事実であって、もがかせるために閉じ込められたような、その残酷さと奇跡のような輝きに深く魅せられた。
彼は飽きる。天才的な躍進はいつも凡人の歩むステップを大きく超えているようだ。解ると飽き、次に気をそらすものを身体が止まるまで探し求めているような印象がある。そんな彼の半生は「死んで生きる」をそのまま彼の人生の中だけで実装してしまうような速さで進んでいく。22歳での早すぎる退団とロシアへの帰国、そして、「Take Me to Church」のMVへの出演。
これは一応MVの体だが、主役はセルゲイ氏で、彼の葛藤と半生を封じ込めたような作品になっている。筋肉の一筋にさえ、複雑な背景と彼の想いが宿っているようで、どんな些細な動きも見逃せない。結晶のようなこのMVはたったの数分を永遠として人に残す。どこか哲学的で、壮大な詩劇を観たような余韻が残った。
彼を取り囲むファンが言っていた。「サインより、目を見つめてもらったら?」分かるような気がする。彼は伏し目が格別に美しいが、機会があったら彼の目を正面から奥まで覗き込んでみたい。10年後、20年後、彼がどんな目をしているか私は知りたい。
最後に
私はあまり人に興味を持つことがないので、惹かれるとオタク気質全開でひと通りゴソゴソ調べる。どうも来日予定があるようなので、シェアしたい。コロナ禍で延期になっていたようだ。(延期公演のチケット情報は2020.12月時点未)
2021.6月セルゲイ・ポルーニン来日予定@東京国際フォーラム
こっちは「Take Me to Church」の別角度バージョン。暗闇を払う感じがよく出ている。彼自身の基金チャンネルにも、まだ確認しきれていない程の美しい動画がある。やっぱり生で一度観てみたいなぁ。どうでもいいが「Nのために」の頃の窪田正孝さんと少しだけ雰囲気が似ている気がする。
あと脈絡ないけど、なんか綺麗な動画
追記・・・
ヤバイ。愛が止まらない。この映画公開時の記者会見映像も見応えがあった。このような目をする人間は、ちょっと思い当たらない。今にもこぼれそうなほど哀しみが満ちている。が、決して悪い意味ではない。この泣いているような目の表情が気になって気になって仕方がない。とても思慮深い発言をする方なので、気になる方は、この動画に続く中編・後編もチェックしてみてほしい。
あらゆる動画を見尽くしたいが、私は猫動画もそれなりに見なければならない。どちらも1倍速しかありえないため、なんかすごく忙し楽しい・・・