リアリティショー

バチェラー5 #02

はじめに

今回は、epi04-06視聴後のレビューとなります。(前回epi01-03のレビューはこちらから

私自身はあまり感情移入して視聴するタイプではないので、ストールンローズのシーンも「ふ~ん」という感想しかなかったのだが、「正解ってあるのかなぁ?」と考えながら書いていたら、気づけば5,000文字を超えていた。盛りだくさんだった今回は、各イベントを軸にやいのやいの語っているので、暇つぶしに読んでもらえたら幸いだ。

2on1

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited
(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

2on1デートの発表を受け、バチェラーに対して挑むような表情の西山真央氏と、ショックが隠せない輿水りさ氏の様子は対称的だ。前者は感情が表情に出にくく、後者はとても出やすい。

お絵かき時間は死ぬほど退屈で、「旅の一番の思い出」というテーマも意図がよくわからない。言うほど共に過ごしていないし、何を描いたところで地獄の2on1で上書きされるに決まっている。彼が何をもって見極めようとしていたのか謎だ。

そんな背景から、輿水りさ氏は西山真央氏ルートを作るために体よく使われた捨て駒の起爆剤にしか思えず、凄まじい一手を打つバチェラーだなと思った。輿水りさ氏と二人で話すバチェラーの強張った表情には答えがありありと映し出されている。付き合ってもいないうちから「忙しくなる」と言い訳を始め、ああ、これは振られる流れだと確信した。気丈に振る舞っていたが、輿水りさ氏もそれを感じ取ったからこそ、ローズを渡す場面で震えるほどに張り詰めていたのだと思う。あの時、夕日を反射してピンク色に染まる彼女の存在が、どんどん薄くなって波間に溶けてしまいそうな程弱々しかった。

西山真央氏にローズを渡す際の真剣さも類を見ないレベルで、私の脳内には「完」の文字とフィナーレの音楽が鳴り響いていた。余談だが、彼女のドライな家族感が新鮮で、家族回を親友回との選択性にすることも今後検討してみてほしい。

バチェラースキル発動

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

epi04のカクテルパーティーにおいて、過呼吸発作を起こした後のバチェラーの立ち回りが良かった。

あの時、竹下理恵氏はローズを何度も固辞しようとしていた。進行に迷惑をかけ、バチェラーに負担をかけたことをとても後悔していたと思う。「行こう、恵一」という空元気は、それこそ彼の同情を引かないための精一杯の虚勢だったと思う。

彼女を残すつもりだったと思うし、真っ先にバラを渡すと決断したバチェラーを私は称えたい。

公平さや引き起こす影響などを逡巡せず、「いち早く彼女を安心させたい」と彼が感覚的に行動したことが全てだと思う。少女マンガのヒーローのようでカッコよく、彼が初めてバチェラーに見えた。大きな大きな包容力だったと思う。

不安定になることは、それだけ本気という裏返しでもある。彼を想っていなければ、視線のひとつやふたつでジタバタしない。そして、身体が動かせなくなるような難病を抱える彼女は、私達とは違う密度で日々を生きているのだろうと思う。精神的に安定した者が勝ち残るのが常のバチェラーではあるが、それは恋心がない故の安定かもしれないし、ベストの結果に繋がっているかは誰にも分からない。バチェラーが「彼女をこの状況に置いておけない」と考えて行動したのなら、何も言うことはない。

ストールンローズ

論理の敗北

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited
(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

内向型とは、多かれ少なかれ月田侑里氏にシンパシーを覚えてしまうものである。どことなく自分を見ているようで、他者からは「ウジウジと主張もせず煮えきらない」と思われているのだろうなと内省が捗るこのシーンは刺さる。どこまで代弁できるか分からないが、あの時の彼女の気持ちを僭越ながら推し量ってみようと思う。

おそらく、月田侑里氏は論理を重視し、感情のフィールドで闘わない。いつも論理でお上品に生きてきたのだろうと思う。私自身もそうだし、別にそれが悪いことだとも思わないが、世の中は割と感情的な人々が動かしているのも事実で、今回は生真面目の敗北だ。あの場での勝利条件は「”私達”が快く送り出している画になるようにしっかり仕向けて」ということに尽きる。

あのバトルフィールドで政治力のない彼女が勝利するには、(1)まだ迷う者が多い前日の段階で真っ先に名乗りを上げて突っ走ってしまうか、(2)竹下理恵氏の取り繕った矛盾だらけの理由にツッコミを入れるしかなかった。ではなぜ、彼女はそれをしなかったのだろうか。

(1)1日目に使用しなかったのは、グループデートの居残りに選ばれなかった自分が、先程まで一緒にいた杤木愛シャ氏の初ツーショットデートを邪魔することに気が引けたのだと思う。一応はデートに行けたという事実と、二人のデート場所が昼食会場のプールという手抜き感にも、少し同情&安心してしまったのかもしれない。

(2)竹下理恵氏の「皆の感謝も伝えたい」という訳分からん発言については、西山真央氏と尾﨑真衣氏が先に「なら引けば?」とツッコミを入れていて、論理で考える彼女は更に被せる必要性を感じなかったのだと思う。論理は要素を加えて横展開させることができるが、同じものは感情のように積み重ねることができない。唯一の攻めポイントであったと思うし、感情で動くタイプなら「そうだ!そうだ!!譲ってほしい!」と追撃しただろう。論理と感情のいずれを重視するかで闘い方の差がある。

論理の伝搬力は時代や国境を超えるが、時間軸は様々で即時性がないことも多い。一方、感情のそれは、範囲が限定されるものの強烈な瞬発力がある。そして、感情には「感染する」という特性があり、拡散していく。

また、例の発作時に、チラッとドレスが見えていたので、別室で付き添っていたであろう月田侑里氏にしてみれば、「感謝をこの場で私に返せ」と直言することがフェアさを欠く過剰攻撃であり、竹下理恵氏を追い詰め過ぎてしまうと思ったのではないだろうか。発作を間近で観測していたなら、彼女の感情を高ぶらせることにも恐れがあっただろうと思う。

外向型のフィールドで闘う

SNSで議論も尽くされたような気がするが、その上で私がひとつ提案したい観点は、「リスクを取らないと決めた外野に1票はあるのか」だ。まず整理したいが、あの場で本当にストールンローズを使いたいと考えていたのは竹下理恵氏と月田侑里氏の2名だけだ。

鈴木光氏と西山真央氏はグループデートから帰されている。(撮影は別日かもしれないが)すでに競り負けている同日に、リベンジを仕掛けるメリットもガッツも両者にはない。また、鈴木光氏の顔色を伺い、かつ大内悠里氏と仲の良い尾﨑真衣氏も、この場で抜け駆けしようとは思わないだろう。杤木愛シャ氏は乗馬をZIPラインに続くアトラクションとしか捉えていないので可愛いが論外だ。

本気だったのは、ウェディングフォトでチューまでした2名が更に「お似合いだった」と表現した大内悠里氏を本格的に脅威と感じ、気持ちが焦っている竹下理恵氏と、デートに一度も行けていない月田侑里氏の2名だけだ。端からリスクを取ろうとしていない外野を納得させる必要など、そもそもあったのだろうか。

つまり、本気でストールンローズを取りに行こうと思っていない者は「潰し合ってくれればいい」ぐらいに気楽だったのではないかと思うし、他者の本気をジャッジする必要も権利もないんじゃないかと私は思う。

尾﨑真衣氏がトドメの苦言を呈する前に顔色を伺っていたように、あの場は中途半端なファシリテーター鈴木光氏が完全掌握していた。月田侑里氏にいいパスを出したかと思うと、再度話を拡散させて彼女の決死の一言を霧散させてしまう。自分は行かないが、それを日和ったからではなく、「仲間の背中を押す」構図に置き換えて見せたいという意図が透けて見え、個人的には「ちょっと黙ってろ」と思っていた。議論の場に感情を持ち出すという発想自体がそもそもなかっただろう月田侑里氏にしてみれば、「もう理由は言ったのに、これ以上何を言えば・・・」と戸惑っていたに違いない。

外野が口を出さず、二名だけの空間でしっかりと話し合えば、結論は同じでも議論の積み上げと飲み込み方が違ったのではないかと思う。二名だけならば、周囲を巻き込む竹下理恵氏を封じ、論理で闘う月田侑里氏との勝敗はこれほど一方的ではなかったと思う。幼い頃から学級会などで繰り返されてきた光景なので気づきにくいだろうが、この聴衆にアピールできる空間は外向型に一方的に有利で全くフェアではない。「議論による合意」など行われず、声の大きい者が世論を形成するのが常で、公正な審判がいる法廷とは性質が全く異なるものだ。

また、小狡いことができそうにないが、月田侑里氏が鈴木光氏としっかりアイコンタクトを取り、軍門に下れば可能性はあったと思う。現に感情を使うのが上手な竹下理恵氏は、しっかりアイコンタクトを取り聴衆にアピールしていた。彼女が力技で醸成する空気感と政治力は強く、これでは勝てない。残念なことだが、人はさほど論理的に思考せず、感情に突き動かされることが多いので、裁判官のような公正さに期待してもどうにもならない。タラレバを妄想しても意味がないが、私があの場にいたら、外野を退かせることに注力したかなと思う。両者の気持ちが理解できるし、闘うのは本人なので、きっと私自身は口を噤んで誰のアシストもせず部屋を去るか、決着がつかないなら紫のバラをへし折る。

顔がうるせぇ

最後に一応、竹下理恵氏も月田侑里氏の意向を確認していているが、いかんせん顔圧が強い。内向型が他者の表情を観察するとき、誠に失礼ながら「顔がうるさい」と感じてしまうことがある。あの時の月田侑里氏の心象風景には、「行きたい!!行きたい!!!絶対に私が行く!!!私が一番彼を想ってる!!私以上に好きじゃないなら黙っててよーーー!!それでも反論があるならさ、言ってみなよ!!オラオラオラオラオラオラオラオラーーー!!!」という叫び声をあげながらスーパーの床を転げ回る竹下理恵氏が映っていたのではないかと思う。

内向型の被害妄想と言えばそれまでだが、私の印象はそんな感じだった。そしておそらく、月田侑里氏の人間関係において、ここまで苛烈な感情表現をする人間がいないのだとも思う。私の友人にもいない。だからひたすらに怖い。一見地味で表情もあまり変わらない内向型は、別に感情がない訳ではなくて、強すぎる客観や思考がブレーキをかけるため、トップギアに入ることが滅多にないだけなのだ。だから、本気を示せと言われても困ってしまうし、感情をあらわにする人間を間近で観測すると、「マジか・・・そんなにか・・・!」と割と本気でびっくりして譲ってしまうことも多い。

試合に勝って勝負に負けた

「難儀なことですなぁ~」とストールンローズの成り行きを見守っていたが、略奪成功後のデートの空気感に、もはやこの制度に勝者はいないのだと感じた。強いて言うなら、キャンセルを逆手にとって時間差でホームランをブチかました大内悠里氏が圧勝している。

昼食会場でストールンローズが発表された時、バチェラーは一瞬だが月田侑里氏を見ていた。おそらくあの戸惑いの表情からは、竹下理恵氏の到来を予期していなかったのだろうと思う。この地獄のような空気感を、無理矢理明るいものに変えようとする彼女の痛々しさと、亀仙人のようなボディープロテクターに憐れさを感じた。他者のために用意された花火を見上げる彼女はどんな気分だっただろうか。複雑な思いで心からはデートを楽しめなかったのではないかと思う。

一方、居残り組もしんみりと花火を見上げていた。プールの飛び込みが画として完璧なのは分かるのだが、最後まで雑だなぁと私は感じていた。月田侑里氏の心はあんな雑な励ましでどうにもならないだろうし、「ハイ!仲直り!」みたいなテンションも私は違うんじゃないかと思う。皆、悪者になりたくないだけで、略奪成功の不満とグチャグチャした心を夜の空気で紛らわせたいだけだ。別に義理はないが、もう覚悟を決め、最後の夜を過ごしているだろう彼女の気持ちに誰一人寄り添っていない。「ごめんね」の言葉も誠実だと思う一方で、自分の罪悪感を消したいんだなと、ヒールで居続ける強さがないのだと感じた。謝るのは「許し」を相手に強制することにも繋がる。心の整理がついていないあの段階では時期尚早で受け取りづらく、自己満足に過ぎない謝罪は酷だったと思う。

「憐れ、月田・・・」と同情しながらも、ローズセレモニー後の号泣には、隠しきれない自己顕示欲のようなものを感じ、なんだか白けてしまうのであった。観客とは身勝手なもので、本当にすまない。

ストールンローズおかわり

2023.08.17追記分をnoteで公開しています。

ウェディングフォト

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

竹下理恵氏といるときの凪のような無の表情とは異なり、西山真央氏にまとまりつくバチェラーは全身が弛緩しきっている。風になびく彼女の髪を払う様子が愛おしそうで、やっぱり「完」の文字が浮かぶ。

バチェラーの身体的な距離感もそうだが、彼女に対して最も自然に心が開いているように思う。安心とほこほこした愛情だ。完。

起業よりはサラリーマンが向いていそうな長谷川惠一氏は、思考を外注して、第二の脳であるマザー竹下理恵氏の言うことを聞いてヨチヨチ歩く方が正解のような気がするが、彼女を選べるような人間なら既に結婚しているのだろうなとも思う。完。

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

だんだん、鈴木光氏は空っぽなんじゃないかと思えてきた。パッパラパーの方ではなく、虚無の方の空っぽ。

掘っても掘っても、虚空を探るようで手応えがない。笑顔でガードされた先には立ち入れない底知れなさがある。

epi04のマリアッチ観劇もそうだが、二人はアクティビティを介さないと場がもたない。中盤に至っても笑顔一辺倒の彼女がだんだん怖くなってきた。人形のようなパターン化された不自然さに違和感だけが募っていく。

2on1後のインタビューを笑顔で答えていたり、メンバーの発作を騒ぎ立てたりと、他者への共感のなさにゾッとする時がある。

彼女は「THE 仕事人」を一番感じた人で、狙い通りの敗退だったと思う。

バチェラー奥義「俺が言ってんだよ?」

(C) 2023 Warner Bros. International Television Production Limited

epi06のデートはバチェラー史上最高のデートだったと思う。刻々と移り変わる海と空が美しく、あの場所に行ってみたくなる。

緊張してしまう彼女と明るいうちに合流し、尾﨑真衣氏と予行演習済みの場所を探検した後は、最高のロケーションでマジックアワーから夜景までのドラマチックな色彩の変化を二人で眺め、最後には花火まで上がった。

これは個人的な感覚なのだが、街の夜景よりも、こういった美しい夕景を丁寧に一緒に過ごすと、少しずつ降りてくる闇が顔を隠してくれるため互いに想いを吐露しやすく、心に残りやすい。

デートの様子は終始可愛らしく、微笑ましい。バチェラーからは「可愛くて可愛くて仕方がない」様子がありありと見て取れ、他の誰といるときよりも余裕と雄感がある。ただそれは、大内悠里氏が常に新鮮な反応を返し、会話をリードすることによってお膳立てされたもので、もはや完全掌握されているとも言える。

比較するのは申し訳ないが、このデートを見ていると、やはり4号のepi05のデートは酷かったなと改めて思う。長谷川惠一氏は、「自分の気持ちを先に伝えなければ、心を開いてもらえない」と、自分の立場にこだわらずに真っ直ぐ愛情を表現した。心を奪われていても4号のように威圧したり強引さに走らない。ここがとても魅力的だと思ったし、カッコよかった。

私はバチェラーとは違い、彼女をそこまでのピュアピュアのピュアとは考えていない。「一番ないと思われている」「皆にチューしてるの知ってる」発言は、どこまでが意識してのものかは分からないが、庇護欲を誘い、メンバーを出し抜くには十分な威力がある。また、持ち前の優しさもあるだろうが、共同生活を終えるという究極に切羽詰まった状況まで道化に扮し、女性陣を油断させていたところに、勝負強さと頭の良さを感じる。

なんだかんだで、みんな大内ファンになり、幸せに暮らしました。完。

完。完。完。と連発してきたが、本当に誰がファイナルなのかさっぱり分からない。ラブトランジットという最強の再処理工場ができた今、想いのまま突っ走ってしまうのも一興かもしれないなと現実逃避しながら無責任に思う。いつかバチェラーカップルが、Amazonエコシステムに組み込まれることもあるのだろうか。