レビュー

映画「人狩り・ 中国の違法臓器売買」

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【感想】★★★・・・★(点数はつけられない。リテラシーとして必見)

概要

世界一の臓器移植国を掲げる中国の闇。その臓器はどこから来ているのか。「わたしを離さないで」を地で行く。これは臓器移植ツーリズムとその舞台裏を扱うドキュメンタリーだ。全員が視聴して、事象の真偽を含めて考えなければならない問題だろうと思う。ショッキングな内容であるが、どうか視聴してほしい。

はじめに

本記事では、もしかしたら聞き慣れない単語を目にするかもしれないが、ググる時は、ショッキングな画像が出る可能性があるので注意してほしい。まずは文字情報だけを追うのがよいと思う。

感想

以前久米宏氏がハンセン病の歴史を伝える際に口にしていた「無知は罪です」という言葉が何年経っても忘れられない。そして今日ほど、この言葉を噛み締めたことはない。もしここで描かれていたことが本当だったなら、私はそれを知らなかった自分自身を恥じ入る。

20年ぐらい前に「人体の不思議展」というのが話題になったことがある。展示を見た友人は、困惑ぎみに「凄かった」と言っていた。

この展示は、プラスティネーションという特殊技術を使用したものだった。プラスティネーションとは、身体の水分と脂肪分を合成樹脂で置き換えるという剥製を作る技術で、そこで展示されていた人体は全て本物であり、様々なポーズが取られていた。

なかには、運動するポーズなどで筋肉の付き方を表現したものもあれば、妊婦のものもあり、この標本の作成過程と入手方法については疑惑がつきまとい物議を醸した。

この展示会はたしか数年開催されていたように記憶しているが、私は行くことがなかった。友人から触れる展示もあったと興奮気味に聞かされており、シンプルに気持ち悪かった。私はアホだが、こういう時のカンは悪くない。今思えば、友人も気持ちを処理しきれず、誰かに話したかったのだろうと思う。

当時、好奇心から少し調べたことがある。中国には法輪功という、実態は宗教に近い、「真・善・忍」を基本理念とする気功団体があり、相当数がその法輪功の学習者となっているらしい。法輪功のおかれている状況については、調べようと思っても、なかなかまともな情報にたどり着きにくい。陰謀論めいたものや、刺激的な内容で訴えるものなど、私程度のリテラシーではちょっと判断しずらい。取り上げられ方も様々で「よく分からん」というのが率直なところだ。そもそも、NYに亡命した法輪功主催者が関係する独自メディア「大紀元時報」には一切資本が入っておらず、それはすなわちチェック機構が働いていない。そのため、弾圧の事実があったとて、法輪功そのものが主張するそれを鵜呑みにはできないという複雑さがある。

とりあえず、一時急増して以来、脅威を覚えた中国共産党による弾圧が始まり、それが現在も続いていることはある程度確からしい。法輪功メディア(大紀元時報)と接触したことが中国政府に露見すると、それだけで拷問対象となるらしく、そのような接触にさえ警戒する事態があるようだ。

人体の不思議展が開催されたとき、標本が法輪功学習者ではないかという噂があった。法輪功学習者はひどい拷問を受け迫害されている。そのような統治状況下に加え、生きたままプラスティネーション加工をしなければ、あのようなポーズをとれないのではないかという疑惑があった。真偽の程は私には分からない。しかし、妊婦の標本と聞いた時に「ありえる話だ」と思った。

その前提があったため、この映画を観て「ああ、これは黒に近いグレーだ」と私は思った。中国共産党ならやりかねない。論理的に説明されていたのに加えて、既に多くの欧州議会で声明が出されており、少し調べてみると、かつて東京都議会などで上映会・討論会が催されてもいたようでもある。そして、国際ニュースについて私のアンテナが低かったこともあるが、移植ツーリズムの問題について、あまり大きく報道がなされていない日本の現状にも目眩がした。

とは言え、この映画の内容について真偽を個人で判断することは正直難しい。そうだと主張する者も、ありえないと主張する言説も撒き散らかされており、まずまともなソースに辿り着くことが困難だ。

そういう意味で、私自身もこの内容について絶対の自信があるわけではないが、こういう場合、私は安全サイドに倒して考えるという仮のスタンスを取る。

つまり、これが本当に起こっていたら無視するわけにいかない。だから、絶対にそれがないと証明されるまで、「あるかもしれない」というスタンスで世界を見つめる。これだけが、凡庸な私が、大切なことを見逃さないように努力できることだからだ。本記事については、その前提で読んでいただけたらと思う。そして、私の意見も当然疑って自分で考えてみてほしい。

もし本当に起こっているのなら、これはジェノサイドだ。ホロコーストを超えるような悪魔的な所業であり、これは地球に暮らす全人類に問われている。これを放置するようなら、もはや私達は人間ではないだろう。

近年ますます複雑化しつつ加速する社会は、正確な情報を全て手に入れてから考えるという手順がとれないことが多い。判断を保留する間に、こぼれていく者が続出し事態の悪化を招く。これは本当に思考のコストが高くついてしんどいが、仮定でもって読み解く努力をするべきなのだろうと思う。

昨今、Netflixが世界の前提になりつつあると言われている。そこでは数多くの良質なドキュメンタリーや映像作品があり、私も彼らがなんとなく何をしようとしているか分かる気がする。(日本のNetflixはちょっとおかしい作品が多いが、2021年配信予定の米倉涼子主演「新聞記者」で生まれ変わるかもしれない。)

現在、報道についてはもはや日本のメディアには頼れそうもない現実がある。そのため私達は、エンタメやパッケージ作品を適度に取り入れながら、感じ、学び、考えなければならないのだろうと思う。

真偽はさておき、一度仮定であるとの前提で映画を通しておぞましい事象を見つめ、今世界で何が起こっているかを可能性として知るべきだろうと思う。そして、知ったからにはその「蓋然性」を伝えるべきだろうと思い、私はこの記事を書いた。

映像では、海外からの渡航者が数週間の滞在で奇跡的にドナーに出会い、スムーズに臓器移植されるシステムについての種明かしがある。刮目してほしい。

思考する上で、同日に視聴していたウイグル弾圧の知識もヒントになった。記事の最後に貼っておくので、是非視聴してみてほしい。中国政府がことさら生体データを入手したがる理由はここにあるのではないだろうか。どこまで見据えた計画だろうかと、背筋が寒くなる。増え続ける人口に対して、国家的な愛がないのかもしれない。本当にいつでも収穫できる家畜のように人間を捉えているのかもしれない。

そして今、我が日本についても思う。既に彼らの顧客になっている日本人もいるだろうし、逆の視点を持てば、世界的にも長寿を誇る日本人の内蔵は、さぞかし高値で売れるのではないだろうか。少数民族や法輪功学習者のように拉致されることはなくとも、経済格差という暴力で殴りかかってくるのは近い将来なのではないだろうか。今一度、自分と世界をつなげて考え直したい。そう思わせる映画だった。

併せて観てほしい映画
「世界に伝える・ウイグル族強制収容所」

同じテーマを扱う作品
「わたしを離さないで」(映画)

「わたしを離さないで」(ドラマ)
これには、故・三浦春馬氏が出演している。この作品こそが彼の最高傑作であったように私は思う。今は映像のなかに生きる、透明感のある彼の姿を、見られそうなら見てほしい。