レビュー

映画「太陽の下で」真実の北朝鮮

【感想】★★☆☆☆(35点、とは言えおすすめ。ながら見ぐらいが吉)

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概要

北朝鮮エリートとして育つ娘を追うドキュメンタリー。ロシアの制作スタッフが未検閲の映像を持ち出して作品化したもの。

序盤で虚飾が明確に映し出されており、何度もその事実を淡々と見せつける中盤は冗長的でやや退屈する。が、最後の10分間に全て持っていかれる。

本記事ではネタバレしないが、できればレビューも読まずに観る方が感じるものがあるだろうと思う。中盤のだるさも、全てはラストシーンのためにある。劇中の睡魔に耐える子供のように、眠い場面が延々続くが、このシーンを観る価値はある。

感想

北朝鮮映画を観るといつもなのだが、日本人同士のコミュニケーションについて思いを馳せながら、表情を観察していた。

私は人の表情を観察するのが好きだが、ここまでコントロールされてしまっては、もうどんな感情なのかさっぱり分からない。皆がみな俳優だ。「アクション」の号令で一斉に動き出す。

これは遠い国の出来事のようだが、日本でも同じようなコミュニケーションをしている人はよくいると思う。心にもないような嘘や美辞麗句を口にし、笑顔を作る。私はそれがずっと気持ち悪いが、そのような振る舞いをしていると、この映画をどのように受け止めるのだろうかと気になる。

国家的な式典が終わるやいなや、出席していた庶民が淡々とその場を去っていく。誰も会話をしない。これは映画全編を通してそうだ。笑顔も指示を受けてから作る。徹底されていた。そして、式典終了後すぐに献花を乱暴に廃棄用の台車に放り込む様子がリアルだった。そうだ、誰も心から式典を喜んでいる訳ではない。全員が演じている。ホラーだ。ずっとずっと朝から晩まで、365日茶番だ。

いつものように空想した。怖い空想だ。もしも北朝鮮に生まれていたら・・・私はずっと白目を剥いていただろうと思う。人体にそういう機能があるなら、白目が高速回転して、そのまま絶命していたんじゃないだろうか。いや、それ以前に、私が私であったという保証がどうやらなさそうだ。

おすすめ映像

北朝鮮関連として、衝撃的だが面白いものをお薦めしておきたい。

ダラケ・シーズン11「北朝鮮から逃げてきた!脱北者」

2017年5月に放送されたものだが、Netflixで視聴可能?なようなので、興味がある方は是非。

ダラケという番組は、まぁ下ネタも多くて下世話なテーマを扱うことも多いのだが、たまにこんなネタも扱っている。司会の千原ジュニアが面白くて私は結構好きだった。

ここでの衝撃的な内容は今でも忘れられない。2つだけシェアしたいと思う。残りは是非視聴して発見してほしい。

なお、脱北者として出演していた川崎栄子さんは、しっかりと過去を捉えて言葉にできる特別な方だ。記事の最後に動画を貼っておくので、是非耳を傾けてみてほしい。

1)人糞を奪い合ってケンカする

北朝鮮には日本にないような仕事がある。人々には堆肥を作るための人糞集めのノルマが課せられているらしい。

かつては人糞も「そのまま」の提出で良かったが、いつしかそれが「乾燥人糞」に変わったらしい。そのため、道路という道路に生の人糞を撒いて天日干しにしているらしく、その臭気は壮絶なものであるらしい。そして、ノルマ達成のために、時には殴り合いのケンカになるというから、笑うに笑えない。「ここからこここは、俺の人糞だ」という具合らしい。凄まじい世界観だ。どうせ堆肥にするには水分を加えることになるというのにだ。

天日干しの理由は、運搬やら保管上の理由だろうか?と私などは考えていたが、どうもそういう話ではなさそうだった。脱北者の川崎栄子さんが次のように鋭い指摘をされていた。

「北朝鮮には無数の仕事があり、ノルマが課されている。朝から晩までやるべきことが規定されている。天日干しも我々の時間を奪い、思考を奪うために指示されている。そこに合理的な理由などない」

私はこの言葉に衝撃を受けた。これは、日本と同じではないだろうか。私達は、幼い頃から、考える暇もないほど学校で膨大な量を記憶させられ、計算させられる。思考の時間など授業にはほぼない。また、会社に入ってからも同じだ。残業が続き、帰ったら寝るだけ。ニュースをチェックする時間も余裕もないような日々。「私達も、考えなくなるように仕向けられている」そう気づいた衝撃はかなりのものだった。

そして現在、コロナ禍で時間に余裕ができた層が、日本の政治について気づき、感じ、考え始めている。やはり「時間と思考」と「統治」には密接な関係がある。

2)雨の中で泣く

私は脱北者の一人が言った台詞が忘れられない。

「雨が降って初めて泣けるんです。雨が隠してくれるから(涙も声も)」

北朝鮮では、感情を乱すことが許されていない。特に泣くという行為は、当局に不満でもあるのかということになり、危険を伴うらしい。

だから、彼女は雨が降ると屋外に出て泣いていたと言う。脱北して日本に居てなお、雨の日はそのようなことを思うらしく、政府の抑圧がとてつもないものであると実感する言葉であった。

自由と人権への道 -北朝鮮での43年間の生活を経て-(25分)